愛のままにわがままにボクはキミだけを傷つけたい  1


 いよいよ日本行きの日が2日後にせまった。多いとは言えない荷物の整理を終えたバゼットは航空券の確認をしようと、旅行会社から受け取ってきた封筒を開いた。
「?」
 封筒からは航空券だけでなく、パンフレットのようなものまで溢れ落ちる。
「……」
 その中をパラパラと捲ってみると、色鮮やかな民族衣装の写真が載っていた。
「へえ、これが普通の女の格好か」
 霊体を解いたランサーが、側からそのパンフレットを覗きこんだ。
「普通の、とは少し違うかもしれないな。ベトナムの民族衣装だから…」
 全く微動だにせず、冷静に言葉を返すバゼットだったが、ランサーはと言えば彼女の言葉なぞろくに聞いてもいなかった。
「うわ、すげーいい乳してやがるな。こっちも。何だ、今の女が全員バゼットみたいなのかと思ってたぜ」 
 初対面の時からバゼットの外見…男装についてブーイングをしているランサーはいつも通りの茶々を入れる。

「……アオザイは体型補整効果があるからな」
 言外に「自分の乳のサイズは並だ!」と主張しているバゼットだったが、ランサーは気にすることもなく(あえて無視しているかもしれないが)、
「だったら、バゼットもこの国ならフツーに女としてあつかわれるんじゃねーの?」
 などと更なる追い打ちをかけてくる。器用にも見えないところに青筋を立てていたバゼットは、腕をすっと上げた。
「!!」
 条件反射で身を引こうとしたランサーだった。何しろバゼットは手が出るのが早い。自分も気の長い方ではないことを自覚しているランサーだったが、彼女の手の早さには絶対に叶わない、という変な自信があった。


「…な、なんだよ」
 殴られる、と身構えたランサーの頬に手を当ててきたバゼットの行動に、ランサーは彼女の心理をはかりかねていた。
「いや…その時は…そうだな、お前にも一緒に行ってもらおうか…」
 予想外のバゼットのセリフに、ランサーはただ呆然とするばかり。
「へ…?」
 その上、彼女がもう片方の頬にも手を添えてじっと見つめてくるのには二の句が次げないというものである。
「なあ、いいだろう…? 私はお前と一緒がいい…」
 思わず生唾を飲み込んだランサーだったが、据え膳食わぬはナントヤラ。
「あ、ああ…それは別にいいんじゃないか」
 などと、女性経験がない子供のように中途半端な返事を返すのが精一杯。そんなランサーを見てニッコリと笑ったバゼットは、

「そうかそうか。なら美味いものもたくさん食べられるな〜」
 と一気にご機嫌モードへと切り替わる。

  引き続いてのバゼットのセリフは文字通りランサーを天国から地獄へとつき落とした。


「ベトナムの名物に『犬鍋』というのがあってな」
「へ?」
いきなり出てきた「犬鍋」という言葉に、ランサーは眼が点になった。
「犬の肉の鍋物だそうだ。最近食べられる場所が減っているから、なかなか食べる機会がなくてな」
「……」
身体だけでなく顔までも青ざめたランサーを楽しそうに眺めながら、バゼットは笑顔を全開にする。
「いや、お前と犬鍋を食べることができるなんて楽しみだなあ」


……なんのことはない、セクハラする相手を間違えると酷い目に逢うという、教訓であった。


・END・




ちなみに赤犬が一番美味しいんだとか(笑)。もっとも、現在は動物愛護団体とかがうるさいらしく食べるのが難しいようです。まあなんですか、ベトナムにはフォーとかバインセオとか色々あるんだからいいと思いますよ>バゼットさん(笑)。



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